看板とアルミ その3 アルミの溶接

看板TIPS

アルミを自社で溶接している看板屋さんは、珍しいと思います。
というか、看板屋さんに限らず、町工場レベルでアルミの溶接を行っているところは、比較的少数派だと思います。あったとしても業種が限られるはずです。

それはなぜか?
そもそも、アルミを溶接しなければならないシチュエーションが、かなり少ないんです。軽くて、部品点数が少なくなるよう複雑な形状を作る・・・車両・鉄道や航空機などが大半ではないでしょうか。

もう一つは、表面処理の問題。
美観を求められるものや錆の発生を抑えたいものはアルマイト処理されますが、アルマイト処理したものは、そのままでは溶接できません。アルマイト層を削り落とす必要があります。
逆に、生地の材料(アルマイトしていないもの)を溶接したものを、あとでアルマイト処理するとよいと思うのですが、滅多に見かけませんね。サイズが大きくなってしまってアルマイト処理しにくい、単品製作するものを都度アルマイト処理するのは、コスト的・手間的に難しいからだと思います。
例えば住宅のアルミサッシは、元になる型材の状態でアルマイト処理し、各建具のサイズに合わせて切断、ビスで組み立てられています。アルミ枠自体に強度を持たせるのではなく、既に強度を確保している躯体に取り付けられます。

アルミ製品は、様々な断面形状の型材を作れる特性を生かしたもの、特別に軽く作る必要があるものに限られます。
溶接してまでアルミで製作すべきものは、あまり無いのではないでしょうか。

私の場合は、そもそもバイクを弄りたくて交直両用TIGを導入、結果として仕事に生かせているという経緯があります。
今現在、自社で鉄骨製作されている看板屋さんがアルミの溶接を始めるならともかくとして、溶接作業そのものをされていない看板屋さんがいきなりアルミの溶接を始めるのは、少々ハードルが高いんじゃないですかね~

主なアーク溶接の種類
主なアーク溶接の種類

アルミは、TIG(タングステン・イナートガス・アーク溶接)かMIG(メタルイナートガス・アーク溶接)で溶接します。どちらも、溶接時に空気を遮断するためのシールドガスとして、アルゴンガスか、アルゴンとヘリウムの混合ガスを使います。イナートガスとは不活性ガス・・・簡単に言えば燃えないガスですが、化学的には元素周期表の一番右の列、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンを指すそうです。

TIGは手溶接、MIGは半自動溶接(自動的に溶接棒が送給される)で、TIGの方が難しく、仕上がりはTIGの方が上です。ただし、仕上がりは作業する人のスキルに左右されます。
肉盛りしたりするのはMIGの方が向いています。
また、TIGよりもMIGの方が作業が速いです。

弊社の溶接機はTIGです。(鉄骨製作時はCO2、現場溶接時は被覆アーク溶接を使っています)

鉄やステンレスは直流電流で溶接しますが、アルミは交流電流で溶接します。
TIGであればアルミ溶接できるわけではなく、交流溶接に対応したTIG溶接機が必要になります。
弊社の溶接機は、直流・交流両用溶接機になります。

アルミが交流溶接である理由。
アルミは表面が酸化して強固な膜を張る性質があります。この性質を利用したのがアルマイト処理です。
アルミの融点は660℃程度で、酸化アルミの融点は2000℃程度。溶接中もどんどん酸化膜を形成するため、これを除去しないと溶接できません。

直流溶接の基本形である被覆アーク溶接(溶棒を使う、手溶接)の場合は、厳密には正極性(マイナスがホルダー、+がアース)、逆極性(+がホルダー、マイナスがアース)を使い分ける必要があります。(溶接棒のパッケージにも適した極性が書いてあります。ただ、現場でこまめに使い分けている人はいないんじゃないですかね? 半自動溶接の場合は溶接機によるので、定められた極性でしか使えません。知る限りではすべて正極性だと思います。)

正極性と逆極性を図で表すと、こんな感じ。


正極性は溶け込みが深く、範囲が狭い。
逆極性は溶け込みが浅く、範囲が広い。
これは、陽極側の入熱量が大きくなる特性があるため。金属イオンが陽極側に移動しようとする性質があるのだそうです。

これがアルミのTIG溶接の場合だとどうなるか?
正極(トーチがマイナス)だと、酸化被膜が邪魔するため、そもそも溶接できません。
逆極(トーチ+)にすると、「クリーニング作用」と呼ばれる現象=陽イオンが酸化被膜にぶつかって破壊する現象が起こります。
正極だと酸化被膜が邪魔で溶接できず、逆極にすると酸化被膜を除去できるもののトーチ側に入熱=母材が溶けない(電極がどんどん減る)。

交流溶接では、上の2つの図が高速(60Hz地域では1秒間に60回)で交互に起こります。
アルミの溶接には、正逆両方のメリットを良いとこ取りできる、交流溶接が適しているというわけです。

アルミの溶接は難しいと言われますが、私は慣れてしまってるんで全然普通です笑 まあ、専門家に比べるとレベルはかなり低いと思いますけど・・・。

では、何が難しいのか?
アルミは、放熱性が高く、熱伝導率が高い。
放熱するので、溶ける温度になるまで時間がかかり、溶け始めると融点が低いこともあって、どんどん溶けます。

DSC_0420

この写真、どちらも30×30-1.5を溶接したものです。どちらも右側から左に向かってトーチを運んでいます。
上は普通に溶接したもの。
下は、わざと条件を外して溶接したものです。

下は、溶接を始めたうちは、母材が全然溶けてませんが、左に進むにつれてどんどん溶けだし、最後は溶け落ちています。

アルミは放熱性が高いので、初めは全然溶けません。母材が温まってくると溶けだします。
溶けだすと今度は、熱伝導性が高いので母材全体が熱くなり、融点が低いこともあってどんどん溶けてしまいます。
肉厚や母材のサイズ、形状によっても溶け方が全く異なります。
尖った部分は溶けやすく、入り込んだ部分は溶けにくいです。
鉄やステンレスとは違って、その場面にあった電流やスピードで溶接する必要があるわけです。上の写真の溶接の場合、溶け始めるまではじっと我慢、溶け始めたら進んでいき、溶けるスピードが速くなるにつれて進めるスピードも速くします。

特に薄物は大変で、30×30-1.5はどちらかというと難しい部類に入ると思います。母材が小さい時も同様です。

あと、少しコゲた跡があります。
これは切断した時の油を除去しないまま溶接したためで、ちょっとした汚れや酸化物、異物、皮脂なども影響する場合があります。ビードに嚙みこむとどうしようもありません。

今回のTIPSのその1で書いた通り、アルミ合金にはさまざまな種類があり、それぞれの材質に適応した溶棒を使う必要があります。
それと、A6063は溶接すると、火が入った箇所が軟化してしまうという弱点があります。現実に看板枠で使う限りは問題にはならない程度ですが、負荷が掛かる部分には注意が必要です。7N01のように、しばらくすると自動的に硬化する(時効硬化)ものもあります。

これで概ね、TIPSは終わりですが、最後にもう一つオマケ。
パネル看板の看板枠をアルミで作る意味について。

アルミは軽く、木のように腐らず、鉄のように錆びない。スマートな仕上がりで高級感がある。木枠や鉄枠と比べて、手触りが良い。すなわち、お施主さんが目の前で見たり触ったりできるような小型の看板の場合は体裁が良い。面板がトタンからアルミ複合板に移行し、アルミ複合板のメリットであるフラットな仕上がりを、より得やすい。

・・・というのが出始め当初のアルミ枠のメリットだったと思いますが、2010年過ぎたあたりからちょっと事情が変わりました。
看板用のインクジェットプリンターが急速に普及し、当初はみんな何も考えずに何でもかんでもインクジェット印刷で看板製作するようになりました。ところが普及してしばらくした頃、インクジェットプリントは塗装やカッティングと同様の施工ができないことに気づき始めたのです。
耐久性・退色性の問題、再剥離性。そして複合板のジョイント位置での、インクジェットシートの破れです。これはアルミ複合板の、熱による伸縮が原因です。

アルミ枠はアルミ複合板と熱膨張率が近く、板のジョイント部分でインクジェットシートが破れにくいです。これが現状、アルミ枠の最大の長所だと思います。

短所は、アルミにビスが効かないこと。
他社さんが施工されたものを見ると、「エーーッ」という方法で取り付けられたりしています。これでは風で飛ばされるのも当たり前でしょう。
弊社では、独自の方法で全ての問題をクリアしております。

アルミについてのTIPSは、とりあえずここで終了とさせていただきます。