お客さんに紹介されて、働かせていただくことになった看板屋さん、有限会社アド・アートキュー。現在は廃業されています。
客先で悪く言われることが多かったトーゴーアートの石原社長と対照的で、「柴田社長はいい人だよ!」と言われることが多かったです。最初は安心してました。
ところが、しばらくすると色々とボロが出始めたのです笑
かなり際どい話もありますが、廃業されてますし、社長はかなり前に亡くなってしまいましたので、まあいいでしょう笑
まず、最大の特徴にして、全てに通じるエピソード。
それは、夕方5時になると必ずビールを飲み始めること笑
トーゴーアートも会社の冷蔵庫にはビールが入ってましたが、仕事中に開けるということは、ほとんどなかったです。
アド・アートキューでも最初はおそらく、「5時になったらビールを飲んでもOK」という感じだったのでしょう。しかし、私が目にしたころには既にそんな雰囲気ではなく、「5時はビールを飲む時間である」になってました。
缶ビール片手だろうがベロベロに酔っぱらおうが、仕事をすればよいのですが・・・、仕事をしない!!笑
どんなに仕事が詰まっていても夕方5時になるとビールを飲みだして、それ以降は仕事しませんでした。
真面目に仕事をしないというのは本当に酷くて。
飲んだら仕事しないどころか、飲んでなくてもマトモに仕事しない!!笑
平日にダラダラしていて仕事が進まず、日曜出勤を求められることがありました。
最初は仕方なく1~2度出勤しましたが、その後はズバリ断ってました。
一人頭の仕事量では、トーゴーアートのせいぜい半分くらいしか働いてない感覚でしたね。
おかげで在職中、看板がお店のオープンに間に合わなかったなど、納期に間に合わなかったことが何度かありました。
ちなみに私の看板屋歴上、事前にお許しをいただいたケースを除けば、納期に間に合わなかったことはそれら以外では一度もありません。(まぁビミョーだったことはありますが・・・笑)
最も閉口したのは、車を運転している時でもビールを飲み始めることです。
随分前のことです。飲酒運転は、事故りさえしなければ笑ってすまされるようなところはありました。しかし、いくらなんでも飲みながら運転するのは言語道断。
何度も注意しましたが、止めてもらえませんでした。
私は、今でこそお酒をほとんど飲まなくなりましたが、一時酒癖が悪くなったのは、間違いなくアド・アートキューの影響です笑
次に、金回りの悪さ笑
苦しいのはどこでも同じことですが、どう考えても原価割れしている仕事がしょっちゅうでした。気前が良すぎるんですね。
材料が買えなくて仕事が止まったり、現金仕入れの時に従業員の不法滞在の外人さんにお金を借りたり笑、大変でした。私の退職後には電気を止められたこともあったと聞きました。
その割にフィリピンパブとかに飲みに行ったりして、社長は財布の紐が緩いタイプの方でした。
また、有名どころからの直接の看板の依頼がちょいちょいあって、最初は「へぇ、すごいなぁ」と思ってました。ところがこれ、裏があったんですね笑
実質、代金を回収していないような状態でした。これと同様の理由で、材料屋さんからの仕事も多かったです。理由はご想像にお任せします笑
その割に、社長は見栄っ張りで。
商売には、ある程度のハッタリは必要だと思います。自分でそのハッタリを回収しさえすれば、ハッタリは無かったことになります。しかし、ご自身で回収しきれないハッタリが多く・・・。その結果があの状態だったのではないかと思います。
仕事内容も粗いというか雑というか、チャランポランでした笑
一番衝撃的だったのは、同業者さんからの下請けで、縦3m×横5mの壁面看板を製作取付の仕事。
1m×3mの大判のアルミ複合板を5枚支給され、アルミフレームで製作、というオーダー。
なんと、薄物のアルミアングルの3m×5mの外枠に対して、中桟が1本しかないフレーム(漢字の「日」の状態)に、複合板を張りました笑
私はこの時はすでに自分の仕事で忙しく、たまたまアド・アートキューに行ったときに見ただけでした。他にもたくさんアイテムがあったこの仕事も、直前までダラダラしてました。期日迫って現場で2日間徹夜して完了させたそうですが、取り付けた看板はしばらくして、どんどん変形。大クレームになったそうです笑 そりゃあそうでしょう笑
普段の仕事でも、打ち合わせらしい打ち合わせをしたことはなく、それぞれが指示も無いままに勝手に動いている感じでした。
私は自分の仕事が片付くと人の仕事をサポートしたりします。ところがそれをすると、番頭さんはスネてどっかに行っちゃうんですよ笑
手を出されるのが気に入らないってのは、職人としての気持ちは分かりますけどね。
腹が立って何度か怒鳴りつけたこともありますから笑、当時も現在も、仲は良くないです笑
社長は、仕事が途切れて超ヒマになっても、営業に行きませんでした。昼寝してました笑
トーゴーアートの石原社長は、仕事が途切れると、必ず営業に行きました。そして、手ぶらで帰ってきたことはほとんど無かったと思います。
これは、私がアド・アートキューへの在籍を疑問視する大きな理由の一つとなりました。
仕事の面以外にも、人間性を疑うようなこと・・・、建築現場で別の業者さんが置いて帰った道具をパクったり、滅茶苦茶でしたね。
きちんと挨拶しないのも、礼儀を重んじる私にとっては精神的にキツかったです。
あと、陰口が多かったなぁ笑 普通に注意すればよいものを、面と向かっては言わずに陰でボロクソ言ってました笑 この影響か、社内全体がこんな感じでしたね。きっと私のことも陰でボロクソ言われてるんだろうと思ってました笑
極めつけは、会社の存在自体が怪しい笑
社長や番頭さんたちは一通り、過去に色々やらかしているようで笑 源泉徴収、雇用保険などなど天引きされてませんでしたし笑、そもそも有限どころか、個人事業の届け出すらしていないのではないかという疑惑がありました笑
そんなわけで、当初は私も「入社した」という表現をしてましたが、途中から「常用で入っている」と表現を変えました。自営と同じ状態ですから・・・笑
まあそれでも、唯一の妻帯者だった私には気を遣ってくださり、お金はきちんといただいていました。ご自身も大変だったでしょうに、感謝しています。
外注が多かったトーゴーアートに対し、内製が多かったです。要するに、お金が払えないので外注を頼めないという笑
凝ったものは作れませんでしたが、全高10mくらいの独立看板塔を、基礎工事、鉄骨から自前でやってしまうのには大変驚きました。
まぁ、かなりインチキ臭い構造で笑、半年くらいかけてチンタラ施工してたので、お客さんに怒られましたけど笑
その他、不法滞在の外人さんを雇ったり、ユニックで人間を吊り上げて高所作業したり笑
道路使用許可を取らずに国道での作業やら、高圧線と高圧線の間からユニックで看板を吊り上げたり。在籍たった1年半での出来事にもかかわらず、ここには書ききれません笑
そうは言っても、これらを完全否定できない自分も存在します。
昨今はコンプライアンスだ何だとうるさい世の中になり、ルール通りにやっていたのでは、成り立たないものも多数あります。
ある程度はぶっ飛んだ発想を持っていないと、絶対にレジェンドにはなれません。
私の場合は、アド・アートキューとはどこかにキリギリの接点があったのでしょう。頭が固い人では無理だったのではないでしょうか。
楽観的な見方をすれば、在籍していると楽なんですよ。流されやすい人は、楽な方、楽な方へ行った結果、最後はこの社風に染まってしまう・・・、長く在籍している人たちは、そんなように見えました。
社長は、根っこの部分は、かなり頭が良い方でした。
製作・施工方法などで悩んでいると、社長が「こうやるといいぞ」みたいに目からウロコなアドバイスをくださることがあり、感心することが多かったです。
チャランポランなわりに、物事を全体像で見ていたという事だと思います。
また、社長はギャグのセンスだけはありました笑
私が最も気に入っているギャグは「おーい、コーヒーが伸びるぞー」です笑
そのセンスをスパイス的に使えばよいものを、真面目な場面でもそんな感じだったんです。それでは仕事もチャランポランな仕上がりになってしまいます。私自身、どこまで社長を信頼してよいのかと、一線を引いて接していました。
私は看板屋をそこそこ長く営んできて、仕事への情熱、技術力や知識、責任能力、取引先との関係性、金銭感覚など一通り、ある程度以上のレベルにあると自負しておりますが、一つ、決定的に持ち合わせていないものがあります。
人徳です。
柴田社長は私とは真逆でした。どこか人を安心させてしまう人間力と言ったらよいのでしょうか、不思議な力を持っている方だったことは間違いありません。
社長は、婿養子に入った先の資産を食いつぶすなどの悪行が過ぎて、晩年に離婚。最後は仕事中に急な発作で亡くなられました。
私は正直言って彼を、仕事人としても人間としても尊敬できませんが笑ゴメンチャイ、今でも時折どこからか声が聞こえてきます。
「おっ、もう5時だ! ウェンさん、アミョ!」
ウェンさんは長く働いた不法滞在の一人で、「アミョ」はミャンマー語で「泡」を意味するそう。
ビールのことを社内でこう呼んでいました。ウェンさんに、ビールを買いにパシリさせてたんですね笑
私は長女が生まれたことで自分の生き方を色々と考えるようになり、1年半程度で常用を辞めて独立しました。
とはいえ、その後しばらくは工場を間借りして自分の製作物をしたり、バーターで仕事をやり取りしたりして、自分の仕事の初期を支えていただきました。
私も人生の走馬灯が回るような年齢となり笑、そろそろ過去のことを吐き出しておこうという気持ちになることがあります。
今回はついついブチまけてしまいましたが、大変感謝しています。