お仕事、何されてるんですか?

看板職人の徒然

私が人に聞かれて困る質問の代表格。

「お仕事、何されてるんですか?」

なーに言ってんだ、看板屋だろって?
そーですよ、看板屋です。当たり前です。

私がどういったシチュエーションでこう聞かれるのかは、ご想像にお任せします笑

どうしてこう聞かれると困るのか?
実際に私がやっている仕事と、他の看板屋さんがやっていることと、一般の方が思い浮かべる看板屋さんの仕事内容。この三つが、あまりに違うということなんです。

念のため書いておきますと、私がやっているのは、看板屋さんの王道的な仕事が主です。特別に珍しい仕事は、あんまり無いんじゃないですかね。
そして、少なくとも会社単位でみれば、全国の看板屋さんで受け付けている仕事内容は、大差は無いと思います。

そもそも職業区分的に、看板屋さんという仕事は微妙な立ち位置にあります。
トーゴーアートの石原社長は「看板屋はサービス業だ」と仰ってました。確かに、「看板書き業」は国が定める産業分類にはサービス業とされてますが、現代の看板屋さんで文字をペンキで書いていたとしても、サービス業に分類するのは無理があると思います。

では、製造業か?・・・違います。
製造業の定義としては、原材料や素材を加工して製品を作り出すとありますから、一見、当てはまっているように思えます。しかし、一般的な製造業で作っているのはマスプロダクト、あるいは作業する人の意思が明確に現れない製品であり、看板は当てはまらないんじゃないですかね。もちろん、規格品の看板製造はこの中に分類されるでしょう。

建設業か?・・・これも違います。
確かに、ある面だけを見れば、めっちゃんこ似てるんですよね。少なくとも、取り付け現場で作業をする場合、ほぼ建設業と言っても差し支えないでしょう。しかし、看板の仕事全体で見ますと、絶対に建設業ではありません。

思い浮かぶ一つ一つを、全て挙げていくとキリがありませんので、この辺にして。

要するに看板屋さんは、要求される仕事内容の幅が広いんですよ。
で、私の場合は、私自身がそれらを全てやっているというところが、他の人たちと違うのです。

先日、ちょっと微妙な気持ちになってしまったことがありまして。
インクジェット出力屋さんが言われた一言です。

「インクジェット出力の仕事は、出力機そのもののコスト、インクなどのコストに加えて、メンテナンスのコスト、出力機の入れ替えサイクル。出力する作業場の環境(埃を嫌い、室温管理も必要になりますからね)、出力品質の問題。さまざまな問題があるため、小さな看板屋さんが出力機を保有して仕事するのは成り立たないでしょう」、ということ。

いや、言われる意味は分かります。そして正論です。
この発言は、インクジェット出力専門店のプライドや自信から来るものでしょう。

しかしですね、弊社は、きちんと仕事として成り立たせています。
成り立たせた後の着地点がどこにあるかの違いですね。

私も色々と研究し、出力にもこだわりがあり、そして自信もあります。しかしですね、インクジェット出力は、機械があればバカでもできるんですよ。
いや言い過ぎか、機械への依存量が大きいという事です。
その出力を貼った看板を現場に設置した時、「いやー、ロゼさんの出力したインクジェットは一味違いますね!」とか言われたことは、一度もないんですよ笑
なので、私からすればインクジェットの出力なんて、いわばどうでもいいんです。自動で動いてくれる機械、それだけです。

弊社がインクジェット出力機の導入をはじめ、数多の設備を導入、様々な作業に取り組むことになった理由は、「自分でやらなければ、自分で作ったとは言えない」という精神によるものです。いわば自己満ですね。
「この看板は俺が作ったんだぜ!」って言っても、デザインしただけでしたら、自分が作ったことにはならないじゃないですか笑
私は、自分がやらなければ気が済まないのです笑

書文字は、私が初めて看板屋さんに入社した当時、すでに覚える必要は無いと言われてました。ところが、書文字の職人のNさんが「あんたらがやってるカッティングは誰でもできるが、ワシがやってる書文字はワシにしかできん」とあまりにバカにしてくるんです。なにくそ、と思って勉強しました。

趣味のバイクの、マフラーやフレームなどが作りたくてTIG溶接に取り組むようになり、現在は弊社の仕事全体を支える仕事の一つになりました。
FRPもバイクの外装を作るのがスタートでしたね。

ずばり書いてしまうと、私が最も好まない仕事は、現場取付作業です。
と書くと語弊がありますが、普段私が現場作業している際は、製作の一環として、現場で看板を作っている感覚になります。
支給品の取り付けのみのお仕事は、原則としてお断りしております。私がやる意味がありません。現場の応援も同様です。

色々なことができるようになった結果として、仕事にメリットが生まれました。まず一つは、ワンストップであるということ。価格を安くすることができて、弊社が最も狙っている中規模の仕事を取りやすい。見積もりも早い。
お店の看板を一通り製作施工させていただいて、最後に追加で小さな印刷ステッカーを1枚だけ欲しいって言われても、「いいですよ、それくらいサービスさせていただきます」って言えるんです。インクジェットプリンターが無かったら、外注先に頼まなければいけませんからね。

現場のフィードバックが確実に為されるのも特長の一つです。
出力屋さんではBtoB、すなわちプロ同士の仕事をしてるわけですから、現場のフィードバックはされているでしょう。しかし、弊社のフィードバック率にはかなり劣るでしょう。

納品の手間が無い、打ち合わせの必要が無いなど、無駄も省けます。

それと、単一の作業内容しかされてない方には盲点なのですが、より総合的な判断ができるというメリットがあります。
人間は自分が知っている範囲のことしか判断できません。
同業者さんからの依頼のお仕事で、時々「どうしてわざわざ面倒臭くなる手順で依頼をしてくるのだろう?」ってケースがあるんです笑ゴメンチャイ
分かりやすい簡単な例では、インクジェット出力貼りにするべきか、シート切文字貼りにするべきか、塗装書文字にするべきか判断に迷う場面で、私は全ての作業を均等にできますので、正しい判断ができます。

これらと引き換えに、犠牲になったものもありました。

私は元々、会社をある程度の規模にして、ビジネスとして成功させたいという面と、自分の本質やプレジャーを重視したいと言う面、相反する2つの狭間で苦しんできました。
様々な理由やいきさつがあり、私は後者中心の道を歩みました。組織としての会社、ビジネスとしては、今のところ成功していないと言えるでしょう笑

弊社は従業員さんが何人もいらっしゃるような同業者さん数社とお付き合いさせていただいておりますが、どの会社さんも作業内容による分担をされています。
作業内容による横割り分担ではなく、縦割り分担も検討されてはいかがでしょうか。仕事の魅力が高まり、今とは違うメリットが生まれると思うのですけど。

昨今はチェーン店の比率が高くなり、看板の仕事はつまらなくなりました。というか、今の流れは既に看板の仕事じゃないです。そりゃあ、「昔は良かったおじさん」にもなりますって笑
私は、看板屋の正常進化版です。申し訳ないんですけど、他の人達が変なんですよ。最も正しい看板屋の一人として最後まで生き残り、全ての看板屋さんに挑戦状を叩きつけます笑