看板屋さんは他業種では類を見ないほど様々な作業に携わるため、各方面の知識が必要になります。
もちろん鉄骨なら鉄工所、電気なら電気屋さんなどその道のプロには敵わないのですが、お客さまからお金をいただく以上、私はいつも勉強を続けています。
闇雲に突き進んで身をもって体験するより、予め理屈を知ってしまった方が近道でもあります。
私は、「カン」というものには頼りません。ただし、いわゆる「経験則」は、いわば統計です。数多くの事例を知っていれば、正確な結果を知ることができます。
さてさて。
小学校だか中学校だかで習うことですが、どんな物質でも、温度変化によって体積が変化します。
看板の素材ももちろんそうです。
特に問題になるのが、アルミの材料、アルミ複合板、アクリルですね。
今回はアクリルに関してのTIPSです。
アクリルは熱膨張率が大きいため、熱伸びしてしまうことを見越して、行灯看板のアクリル面板は実際のサイズよりも小さく作ります。伸縮しても大丈夫なように、アクリルを直接ビスうちするなどして固定はしません。
私はこんな事は常識中の常識だと思ってますが、看板屋さんでもご存じない方や、熱伸びすることは知っていても数字で正しく答えることができない方が多いと思います。
国内の代表的なアクリルブランドの一つであるスミペックスの設計データによりますと、20℃におけるアクリルの線膨張係数は、1℃あたり7×10の-5乗とあります。
弊社の地域では、真冬の朝で-2℃くらい、真夏で37℃くらいになります。40℃の気温差ですね。
また、行灯看板は箱型ですので、真夏には自動車の車内と同じくらい温度上昇するとしますと、最高温度80℃くらいになる可能性があります。
アクリルを20℃で切断加工したとしますと、60℃の温度差ですね。
これに先ほどの係数を用いて計算してみます。
-2℃と37℃の約40℃の差における膨張率は40×0.00007=0.0028。-2℃の時と37℃の時ではサイズが0.28%変化することになります。まあ、-2℃で切断加工することはないでしょうけど笑
加工時の20℃と真夏の炎天下の行灯内部との差、60℃の場合は、60×0.00007=0.0042となります。最高温度の時点で、0.42%膨張することになります。
「え~?たったの0.42%ぉ??」とお思いかもしれませんが、1mあたり4.2mmもあります。クリニックさんでよくあるサイズ、4mくらいの地上塔で面板3mとしますと、12.6mmですよ! これはもう無視できません。
一方で、看板本体は金属製であることが多いですよね。
鉄の係数が1.1×10の-5乗、アルミで2.3×10の-5乗とあります。鉄の場合ですと、80℃の時に0.066%膨張し、アクリルの膨張と相殺されます。屋外看板の場合は、看板本体に対して0.354%のアクリルの膨張を見込む必要があるということです。
アクリル板1mに対して3.54mm。アクリル板が3mの場合ですと、なんと10.62mmです。11mmほど小さく設定する必要があるわけです。ですので角パイプ押さえの行灯の場合は、3mの看板では12mm以下の角パイプで押さえるのは無理があることはわかるでしょう。
あと、熱膨張とは関係ありませんが、板金の厚みを見込まない方が多いですね。昔主流だった薄手のトタンの施工においては、内寸・外寸という概念がありませんから、その流れでしょうか。板金をカポッと被せてアクリルを固定する行灯の場合、板金が1.5tのステンレスでは、内寸は3mmも小さくなります。
街中で時折、アクリルが波打った看板を見かけることがありますが、原因として、この熱膨張を見込んでいないことが多いと思います。
同業者さんでこれを初めて知った!という方は、お会いした時に、ラーメンを奢っていただきます笑