看板とアルミ その1 材質と看板用素材について

看板TIPS
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看板TIPSの第2弾。アルミについて。
私の身の回りの看板屋さんとの話の中で、これが掘り下げた話になったことは一度もありません。てか、おそらくほとんどの方は、考えたこともないんじゃないですかね。
仮にも頻繁に扱う商材ですので、知識がないのはプロ失格だと思います。私は、プロでありたい。
アルミについては、TIPSを随分前から書こうとしてたのですが、書くべき内容が膨大すぎてまとめきれず、何度も頓挫。
内容を何回かに分けてまとめてみようかと思います。

最初に、アルミの材質についてです。
私は専門家ではありませんし、全てを網羅するのは無理があります。主なものと、看板に使えるかどうかという視点で話を進めたいと思います。

まず、「アルミ」と呼ばれていますが、多くは「アルミ」ではなく、「アルミ合金」です。
ステンレスは鉄を主成分にした合金ですが、「鉄」とは呼ばないのと同様、アルミ合金をアルミと呼ばないのが正しいと思います。
でも、やっぱ「アルミ」と呼んでしまうんですよねぇ笑

下にまとめた4桁の系列の他に、「調質」という、熱処理や時効硬化のレベルを表す質別記号もあります。H1、H2、H3、T1、T2・・・T9とありますが、数字が大きい方が結果として強度が高くなります。

1000系【純アルミニウム】
成分の99%がアルミニウム。A1050、A1070、A1085の下2桁はアルミの純度を表し、99.5%、99.7%、99.85%です。
A1100はアルマイト用の板で、アルマイトの光沢を出すために銅が微量入っています。
1円玉、交通標識の板の部分。アルミプレス成型や深絞りなどの鍋ややかん(材質表記されてるわけではないので不明瞭ですが、たぶん1000系か3000系だと思います)。
また、ホームセンターなどで一般的に「アルミ板」という名で売っているものは、これです。
材料として流通している1000系は、ほとんどが板材だと思いますが、丸棒は見たことがあります。
やわらかいというか、粘土的な感じで、強度はありません。
弊社では、面板や行灯の外装として使っています。

2000系【ジュラルミン】
アルミと銅の合金で、A2017はジュラルミン、A2024は超ジュラルミンと呼ばれています。
強度は非常に高く、航空機の部品、モータースポーツ用の素材などに使われます。原則、溶接はできず(物理的にはできるものの、不向き)、切削などの加工が主となります。
コストも高く、看板では使わないです。

3000系
我々町工場が使うような素材として出回っているのは見たことがありません。飲料のアルミ缶がこの材質だそうです。

4000系
シリコンを多く含むアルミ合金で、鍛造ピストンなど、エンジン部品に使われます。アルミとしては熱膨張率が低いのと、耐磨耗性が高いためです。
A4043はビルなどの大型建築物で、外壁パネルとしても使われるようです。

5000系
マグネシウムを含むアルミ合金で、アルミ合金としては強度がまあまあ高いです。溶接もOKで、軽負荷ならば直タップもイケます。
A5052(52S)は板材が多く出回っており、弊社でもアルミでブラケットを製作する場合などはこの材質を使っています。
A5056は、丸棒が多いです。 金具やスペーサーを作るために弊社で少量在庫している丸棒は、これ。
A5083は、溶接できるアルミ合金の中では(7N01を除いて)一番強度が高くて何にでも使えそうなのですが、板材・丸棒のみで型材は見かけません。趣味のバイク部品製作用に少量持っているだけで、仕事では使っていません。

6000系
マグネシウムとシリコンを含むアルミ合金で、押し出し材などの型材に使われます。
看板でよく使われるアルミアングル、アルミ角&丸パイプなどの型材は全てA6063(63S)です。
住宅用のアルミサッシなども全てこれ。(ビル用の大型建築物のサッシは、5000系と聞いたことがあります)
弊社で使用しているA6063の調質はT5です(市場で使われているものとしては一般的で、高温加工から人工時効硬貨処理したもの)。引っ張り強度は185N/m㎡でSS400(一般構造用圧延鋼材)の半分以下、おおむね2.5~3分の1程度の強度を目安と考えています。
A6061は一般鋼材程度の引っ張り強さがあり、量産の安い社外バイクパーツなどで使われています。

7000系【超々ジュラルミン】
亜鉛とマグネシウムを添加したアルミ合金で、超々ジュラルミンと呼ばれます。S45Cなどの高張力鋼を超える引っ張り強度があります。
超々ジュラルミンはゼロ戦に使われたことで有名ですが、ゼロ戦では住友軽金属のESDで、捕獲したゼロ戦を参考にアメリカで開発されたのがA7075(75S)とのことです。わずかに成分が異なるそうです。
2000系同様、銅を含むものは溶接に向かず(ゼロ戦もリベット留め)、溶接用構造材として銅を含まない7N01もあります。7N01のNは日本のNで、新幹線のフレームに使われています。
私は、7N01でオリジナルのバイクのフレームを製作したことがあります。
7N01は看板にも使えそうなのですが、コストが高く、また流通量が少ないため、現実的に難しいです。

鋳造用の合金は単品~少量生産の看板では使わないため、割愛します。

看板に使うとすると、コストと、流通量&入手性。どういう形状のものが市場に流通しているか。強度と加工性、溶接性などが問題となります。
これらを現実的に考えると・・・、
面板や行灯などの外装に使うとすれば1000系の生地(アルマイトではないもの)か、A1100アルマイト板。あるいはA5052。

取付プレートなどを含むブラケットや金具類の製作に使うとすれば、A5052の板か、A5056の丸棒。

パネル看板や行灯のフレームに使うならば、A6063の角パイプ、丸パイプ、アングル、フラットバーなどの型材。

簡易の額縁など、装飾に使うならば、A6063の型材のアルマイト品。

ちなみに、A6063以外では板材(350mmとかの厚みがあっても、板材です)と丸棒・六角棒の流通が主なのは、アルミ合金は切削加工されることが多いためです。
板材はフライス、丸棒・六角棒は旋盤で切削加工されます。

A6063の型材について。

角パイプ、丸パイプ、アングル、アルミサッシなどのA6063の型材は、押し出し加工で製造されます。ところてんのような方法で、500℃(アルミニウムの融点は約660℃)ほどまで熱した材料を、金型に強く押し付けて押し出します。

金型(ダイス)を変えるだけで色々な形状に対応できるため、ある程度まとまった量であれば、オリジナルの型材をオーダーすることもできます。
このため、各メーカーから様々な形状の型材がラインナップされています。

一方で、ロールフォーミングで成形される鋼管は、インチを基準に製造された丸パイプをさらにロールフォーミングして角パイプに成形されます。(一定以上大きいものはプレス成型になります)
つまり、あらかじめ定められた断面サイズのものしか製造ができません。
アルミの場合は比較的簡単に様々な断面形状のものを製造できる為、鉄とアルミでは断面形状のラインナップの成り立ちが、そもそも異なります。仮にカタログに記載されていたとしても、必ずしも全国どこへ行ってもメジャーな商品というわけではありません。

A6063の型材を材料として入手するルートには、大きく分けて2つあります。
一つは色物(鉄以外の)金属系のルート。基本的にアルマイトなしの生地の状態で、長さは4mや5mが多いです。アルマイト品を注文すると、その都度生地品をアルマイト処理するようで、4mや5mのものが来ます。
アルマイト処理は治具で固定してプールに浸して電流を流すのですが、型材の両端のあたりに5㎜程度の丸い跡が1か所ずつ残ります。治具で固定した跡で、「吊り代」「つかみ」「つかみ代」などと呼びます。

もう一つは建材系のルート。こちらからでも生地の4m・5mの材料は入りますが、アルマイト品に関しては3.6mや1.8mなどの尺寸が基本で、吊り代の部分は切り落とされていることが多いです。全体的に薄物のラインナップが多いように感じます。

2ルートで長さが異なるのは、国内の建築ですと尺寸が基本になることがあると思います。それと、金属系の場合はメーカーや問屋さんが自社便やチャーター便で運送することが多く、建材系の場合はメーカーオリジナルの在庫品を、宅急便を含む運送サービスを使うことが多いからではないかな、と思います。